大判例

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東京高等裁判所 昭和50年(行ケ)70号 判決

一 本件訴訟の争点は帰するところ本件発明の要旨(C)・(D)の構成が第四・第五引用例に開示されているかどうかに帰するが、その判断のためには、本件発明の前記構成要件中の「カム機構」をどのように理解するかが前提となるので、まずこの点について検討する。

本件発明の目的が、選択装置をキヤリツジに装着している編機において、編成作業中に何らかの障害が生じた際に、従来キヤリツジを針床上から取外して障害を除去したために、再びそのキヤリツジを針床上に載置したときに、基準の編針に対して選針される編針の模様の型くずれが生じたのを防止すること、すなわち障害除去によつても、選択装置によつて選択される編針と特定の編針との相対関係が変化しないようにすることにあり、この目的達成のためにカム機構を編針のバツトと係合する状態ないし係合しない状態のいずれの状態にしても、選択装置の作用と関連するラツクとピニオンとの噛合いを常に維持するようにしたものであることは、当事者間に争いがない。そして、成立に争いのない甲第二号証(本件発明の特許公報)によれば、「従来、編針のバツトが所定外の通路に導びかれたり、キヤリツジ台板に装置されたカムの先端に衝突したりしてそのキヤリツジ台板が動かなくなつたり、」することなどが障害の原因であることをあげ、この障害を取除くためには「キヤリツジ台板を針床上から取外したりしなければなら」ないこと、「本発明においては、キヤリツジを針床上から外すことなく、キヤリツジに装置されたカム機構の編針バツトと係合しない状態にすることにより、前述したように正常な編成作業の障害を取除こうとするもので」あること、などの記載があることから、本件発明にいうところのカム機構とは、キヤリツジの運行に障害をもたらす原因となるようなカムのすべて、すなわちキヤリツジに装着されているカム群全体を指すものと解するのが相当である。けだし、これらカム群のうちどれか一つのカムに編針のバツトが衝突したり、または糸が絡んだりしても、キヤリツジ全体は針床上を摺動することができなくなるから、キヤリツジに装着されたカム群のうち特定のカムのみが編針のバツトと係合する状態ないしは係合しない状態のいずれかの状態にもできるように構成されていたのでは、キヤリツジの運行障害のすべてを取除くことができないからである。

二 成立に争いのない甲第六号証(第四引用例)によれば、第四引用例について、つぎの事実が認められる。

第四引用例の編機は、選択装置をキヤリツジに装着したもので、この選択装置を作動させた場合、すなわち編針のバツトと係合する状態にして使用すると模様編となり、また選択装置を作動させない場合、すなわち編針のバツトと係合しない状態にして使用すると普通のメリヤス編となるようにしたものである。その選択装置としての作用をするスターホイール26と、模様編のため編針のバツト通路を変更するための付加下げカム91・91とを編針のバツトと係合する状態ないし係合しない状態のいずれの状態にしても、キヤリツジ自体は針床上に載置されたままの状態を維持しているから、キヤリツジに装着したピニオン44とラツク装置に相当するピン45との噛合いを維持するように構成されている。

しかし、直接編成に関与する部分下げカム11・12、上げカム20・21は常に編針のバツトと係合する状態を維持するよう、キヤリツジに固定的に配設され、キヤリツジを針床に載置したままで編針のバツトと係合しない状態にすることができるようには構成されていない(一般にキヤリツジに装着されたカムは、キヤリツジ台板に固定されて動かないのが通常であり、スターホイール26および付加下げカム91・91がキヤリツジに対して上下に移動できると、ことさら記載しているところからみれば、カム11・12、20・21はキヤリツジに対し上下動しないものと認められる。)ので、これらの編成に直接関与するカムのうち、どれかが編針のバツトに衝突したり、あるいは糸がからんだりしてキヤリツジの運行に支障を来した場合には、キヤリツジ全体を針床から取外した上で障害を除去して、再び針床に載置する過程をとらねばならない。このようにすると、キヤリツジに装着されているピニオン44と針床上のピン45との係合が一旦外れることになるので、特定の編針と選択された編針との相対的位置を一定に保つことはできず、本件発明の目的を達することができない。

また選択装置であるスターホイール26を編針のバツトと係合しないようにする目的は、普通のメリヤス編を行わせるためか、または模様編の模様の型を変えようとしてスターホイール26を支持軸の回りに若干回転させたり、または別のスターホイール26につけ替えるためであり、付加下げカム91・91を編針のバツトと係合させたり、させなかつたりするのは、模様編の際の編針のバツト通路を変更するためである。それ故、これらキヤリツジに対して上下に移動できるスターホイール26、付加下げカム91・91が編針のバツトと係合したり、あるいは係合しなかつたりするのは、単に模様編にするかメリヤス編にするかの切換えのためであつて、本件発明のようにキヤリツジの運行の支障を取除くためのものではない。

そうしてみると、結局第四引用例はその目的・構成において本件発明の要旨(C)・(D)の構成とは相違しているといわなければならない。

三、成立に争いのない甲第七号証(第五引用例)によれば、第五引用例についてつぎの事実が認められる。

第五引用例の編機は、キヤリツジに装着され、かつ編針を選択する作用に関与する案内棒20・カム30およびニードルシンカー板31を編針のバツトと係合する状態ないし係合しない状態のいずれの状態にしても、キヤリツジ全体は針床上に載置されたままであるから、キヤリツジに装着されたピニオン5と針床上のラツク5´との噛合いは維持されるように構成されているが、編成に直接関与するニードルリフター30´、ニードルシンカー32・33、くさび61および案内ユニツト62・63は常に編針のバツトと係合する状態を維持するようキヤリツジに固定的に配設されていて、編針のバツトと係合しない状態にするようにはなつていない。そのため、これら編成に直接関与するカムのうちどれか一つでもキヤリツジ運行の支障を来す原因となつた際には、キヤリツジ全体を針床から取外してその障害を除去せねばならず、そのようにすればピニオン5とラツク5´との噛合いは外れるので、再びキヤリツジを針床上に載置した際に特定の編針と選択された編針との相対関係は変つてしまい、一定の型の模様を編成することができず、本件発明の目的を達成することはできない。

またキヤリツジに装着されたカム群のうち、上下動して編針のバツトと係合したり、あるいは係合しなかつたりするのは、ニードルリフター30とニードルシンカー31のみである。これらのカムのうちニードルリフター30が降下して編針のバツトと係合する状態になつたときは模様編が行われ、これが上昇して編針のバツトと係合しない状態になつたときは標準編が行われるようになつており、また、ニードルシンカー31が下降して編針のバツトと係合する状態になつたときは標準編が行われ、上昇して編針のバツトと係合しない状態になつたときは模様編が行われるようになつている。そうすると、ラツクとピニオンとの噛合いを維持したままでこれらのカム30と31とが編針のバツトと係合する状態ないし係合しない状態のいずれの状態にもできるようにした目的は、模様編ないし標準編の切換えのためであつて、本件発明のようにキヤリツジの運行に支障があつた際に、この障害を除去するために編針のバツトとの係合を解くことを目的としたものではない。

そうしてみると、結局第五引用例も、その目的・構成において本件発明の要旨(C)・(D)の構成と相違していることが明らかである。

四、さらに原告が公知の技術事項であると主張する特許出願公告昭三六年―一五七三三号公報について検討する。

成立に争いのない甲第八号証によれば、つぎの事実が認められる。

前記公報に示された装置は、編成に直接関与する編カム15・15および選別装置(作動片54・山形カム6・作動板61・仕訳カム67よりなる)が設けられ、その編カム15・15を編針のバツトと係合しない状態にすることができるように構成されているが、この選別装置は針床に等間隔おきに形成された山形のカム6により作動片54を介してキヤリツジ8上の仕訳カム67を移動させ、その仕訳カム67の移動によつて編針を選針するものであつて、本件発明におけるようにキヤリツジの摺動に伴なつて針床上のラツクと噛合つてピニオンが回転し、このピニオンの回転運動が伝達されて選択装置が作動して編針を選針する構成を有していない。それ故この装置は本件発明の要旨(C)・(D)の構成とは大きく異なり、審決引用のとおり当事者間に争いのない第一・第二引用例の構成と同様に、単に、キヤリツジに装着した全カム群を編針のバツトと係合しない状態とすることによつて編成作業の障害を除去することを示しているにすぎない。

そして、第一から第三引用例が本件発明の要旨(C)・(D)の構成を開示するものでないことは当事者に特に争いのないところである。

以上の次第であるから、本件発明は第一引用例から第五引用例をもつてしては、たとい公知の技術事項を考慮しても、その新規性ひいては進歩性を否定することはできず、審決には、原告主張のような判断の誤りはないといわねばならない。

五、そうすると、原告の本訴請求は失当であるから棄却する。

〔編註〕 本願発明の要旨は左のとおりである。

(A) 多数の編針を列設した針床と、その針床上にその長手方向に沿つて摺動可能に装架されかつ裏面に装置されたカム機構を編針のバツトに係合する状態と係合しない状態とにし得るように構成されたキヤリツジと、

(B) 前記針床にその長手方向にわたつて編針の列設間隔に関連した歯列を形成したラツク装置と、前記キヤリツジに回転可能に枢着され前記ラツク装置に噛合つてキヤリツジの摺動に伴つて回転するピニオンと、そのピニオンに連繋されキヤリツジの摺動に伴つてそのピニオンの回転運動が伝達されて前記編針の列設間隔に関連して移動し得、かつ移動に従つて編針を各別に選択する前記キヤリツジに装置された選択装置と、

(C) 前記カム機構とラツク装置との間に設けられ前記カム機構を編針のバツトと係合する状態乃至は係合しない状態のいずれの状態にしても常にラツク装置とピニオンとの噛合を維持するようにした手段とよりなり、

(D) 特定の編針と、前記選択装置によつて選択される編針との相対関係が変化しないようにしたことを特徴とする編機

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